皆既中は、地球の影に月が全て入ってしまうので本来ならば真っ暗になるはずです。しかしながら、皆既月食というと赤銅色の月を思い浮かべる方も多いことでしょう。これは、地球には大気があるため、その大気がレンズと同じ様な役割をしてほんの少し光を屈折させていることによります。
注)大きさ・距離などは実際とは異なります。
その屈折で曲げられた光が月面にとどいて、ほんのりと月面を照らします。この光は(おーざっぱに怪鳥が計算したら)上空20kmの成層圏あたりの大気を通過してるようです。この曲げられた光ですが、大気中の塵などが存在するので、散乱しやすい波長の短い青い光は、大気中で散乱してしまいます。これに対して波長の長い赤い光は、散乱の影響を受けにくく、大気の中を一部が通過します。ちょうど夕日が赤く見えるのと同じ原理です。こうして、本影の中に赤い光がさしこみ、皆既中の月は赤っぽい色に染まります。
ところが皆既中の月が、毎回毎回同じ様な色に染まるわけではないことは、経験的に知られてます。ほとんど赤っぽくならず暗かったり、オレンジ〜黄色に近くて明るかったりするのです。これらは、大気中の塵の多少によると考えられてます。塵が多いと赤い光まで散乱してしまい、月面にとどかないので暗い月食に、塵が少ないと波長のやや短い黄色い光も月面まで届くので、黄色っぽい明るい月食になると言うわけです。
大規模な火山噴火などがあると、成層圏まで噴煙がとどいてしまい、暗い月食になると言われてます。例えばメキシコのエルチチョン火山が噴火した後の1982年12月の月食や、フィリピンのピナツボ火山が噴火した後の1993年6月の月食は、赤みの少ないかなり暗い月食として観測されました。
近年、火山の噴煙との関連性がうたわれ、ダンジョンの法則自体は否定されつつありますが、いずれにしても月食中の月面の色については、生の観測によって記録しておきたいなぁと怪鳥は考えてます。
1)皆既の開始の頃( 3h15m頃)
実際の今回の月食について、スケール(尺度)の決定には「4)総合評価」を用いますが、食分との関連などを1)〜3)で見てみたいと思ってます。
観測値を評価する際には必ず肉眼とします。
<必須項目>
以下のものを用います。
今回の月食までに、しばらくの間大規模な火山噴火はありませんでした。このため、地球の大気は比較的澄んでいて、今年の月食は明るくなるんじゃないかと予想されます。しかしながら、実際には見てみないとわかりません。
肉眼で皆既中の月と上のダンジョンのスケールとをにらみ合わせて、その値を記録するだけで、皆既月食の色(明るさ)の大まかな目安が記録できます。これはある意味では、地球の大気中の汚れの具合を映し出しているともとることができます。よろしかったら、観測をお願い致します。データがもし集まりましたら、こちらで報告させて頂く予定です。
もし、「観測とまではいかないけれど、雲間からこんな月を見た」と言う方いらっしゃいましたら、こちらまでご連絡頂ければ幸いです。
色(明るさ)の観測のお願い
かつて、この月食の色(明るさ)に注目して研究した方がいたそうです。ダンジョンさんという方で、この方は自分で皆既中の色のスケール(尺度)を決め、約100年間に渡って文献などからその月食の尺度を決定して論文にまとめました。それによると、太陽の黒点活動周期と、月食の明るさが密接に関連しているというものだったそうです。これをダンジョンの法則といいます。
簡単に述べると、黒点活動の極小期直前に月食が突然暗くなり、その後次の極小期までは徐々に明るくなっている傾向があるというものなんだそうです(ちなみに太陽黒点は11年ごとに多くなったり少なくなったりを繰り返します)。
実は怪鳥は、過去何度かに渡ってFAS府中天文同好会や理科大天文研・大天連の方々、パソコン通信の方々などに協力してもらってデータを集めました。その結果は大ざっぱに次の通りでした。
過去の皆既月食のダンジョンのスケールによる観測結果
| 開始時 | 最大時 | 終了時 | 総 合
----------------------------------------------
1990. 2.10 | 2.3( 7)|2.1( 9)|2.2( 6)|
1993. 6. 4 | 1.5( 6)|0.4(13)|1.7(16)|1.1(13)
1993.11.28 | 2.3( 2)|2.5( 2)|2.8( 2)|2.5( 2)
これによると、1993.6.4の月食はダンジョンのスケールで1前後を示しており、かなり暗かったことがわかります。
なおこの色(明るさ)の観測の仕方は非常に簡単です。機材はいっさいいらず、皆既中の月の色を肉眼で記録します。あくまで怪鳥が個人的にデータを集めているだけなのですが、もしよろしければ観測にご協力いただけませんか?
皆既月食中の色(明るさ)の観測方法
2)食の最大の頃 ( 3h47m頃)
3)皆既の終了の頃( 4h18m頃)
4)総合評価(皆既全体を総合的に見て、どう感じたか)
a)ダンジョンのスケール(ただし、1)〜3)については若干解釈を加えたもの)
<参考項目>
b)眼の最微星光度(もっとも暗く見える星の明るさ、1)〜3)について)
c)透明度(5段階、5(良好)〜3(普通)〜1(悪い)、1)〜3)について)
各時点における評価用
L=0:非常に暗い月食で、月はほとんど見えない
L=1:暗い月食で、灰色または褐色がかり、細部は見分けにくい
L=2:暗い赤または赤錆色の食で、影の暗部はとても暗く、明部は比較的明るい
L=3:れんが色の食で、明部は明るいかまたは黄色い
L=4:非常に明るい赤銅色またはオレンジ色の食で、明部は青みがかって非常に明るい
総合評価用
L=0:非常に暗い月食で、特に食の中心で月はほとんど見えない
L=1:暗い月食で、灰色または褐色がかり、細部は見分けにくい
L=2:暗い赤または赤錆色の食で、影の中心はとても暗く、影の周辺部は比較的明るい
L=3:れんが色の食で、通例、影の縁は明るいかまたは黄色い
L=4:非常に明るい赤銅色またはオレンジ色の食で、影の縁は青みがかって非常に明るい
なお、スケール(L値)はそれぞれの中間の0.5単位までOKとします。
またスケール値の説明は、The Journal Of The Association Of Lunar And Planetary Observers誌に掲載されたものを、怪鳥が訳しました。
<観測報告>
全国的に悪天だったため、観測はどちらもできなかったようです。唯一当会福岡支部の山崎さんから、皆既開始時における観測の報告がありますので、ご紹介いたします。
こちらは台風の過ぎた後、非常に透明度の好い空の下での観測のようで、月もかなり明るく見えたんじゃないかと思います。そんな中だったとは言っても、ダンジョンのスケールでL=3.5というのは、月食の中では非常に明るい部類に入り、事前予想通り、地球の大気がかなりクリアだったのではないかなぁと言うことがうかがえます。
最微星等級 5.5等 透明度 5/5
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