リトルの「Thailand(タイ)と1995皆既日蝕」旅行記

 その4


 もはや10時を過ぎ、半分以上欠けた。さっきまでジリジリと照りつけていた暑さが、なんだかやわらいで気温も少し下がり、辺りの風景が色あせて見える。グラス越しの太陽は、三日月のように細くなっている。あんなにわずかでも、ちゃんと太陽は眩しく輝いている。
 10時53分、もう太陽がわずかしかない。「あ、なくなる」と思った瞬間、グラスを離して空を見つめる。皆既だ!

 一筋の光を残して、空が夕暮れのように暗くなった。空に浮かぶのは、黒い円盤とそれを取り囲む真珠色の輝き。ぽっかりと空に穴が開いて、別空間への入り口のように、それは突然存在する。太陽が限られた瞬間に、限られた場所でのみ見せてくれる別の顔。彼にまた会えたのだ。
 あんなふうにコロナは、普段でも広がっているんだね。そしてあんなふうに何ものかの力によって、左右に伸びたりしてるんだね。再会した”黒い太陽”がいとおしくて、そう話しかけたいくらいだ。双眼鏡の中では、紅ピンク色のプロミネンスが大きくはっている様子もわかる。
 「あ、光だ!」。月のどこの谷だろう、重なりがわずかにずれて、太陽が現れ始めた。周囲の谷からも次々に光がもれて、徐々につながってひとつのリングになる。スローモーションで見るように、ダイヤモンドリングができて、そして消えた。

 いつもと同じ太陽が、そこにはあった。あっという間の1分40秒のドラマに、深いため息と拍手がおこる。
 宇宙のできごとは、なぜこんなにも不思議なのだろう。そして自然の森羅万象は、なぜこんなにも神秘的で美しいのだろう。皆既日蝕とタイ王国、実際に経験してみてはじめて、その偉大さや素晴らしさを知る。

 コープクン(ありがとう)! タイと黒い太陽。

 

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