どこからともなく歓声があがる。見えたぁ〜と言う感激が襲ってくる。しかし皆既継続時間は2分20秒ほど。すぐにカメラのファインダーを覗き、とりあえず何枚かシャッターを切る。下が砂地のせいか、単なる三脚の弱さか、シャッターの度にカメラが結構揺れる。とりあえず高感度のフィルムで良かった等と思いながら、1/4秒〜1/1000秒で、とびとびに切っていく。まぁこれだけスピードを替えておけば、1枚くらいは大丈夫であろう。ちょっと周りに目をやると、本当に地平線は赤く染まり、まさに一面が夕焼け空である。ちょっと観望もしたくなる。
リトルの方は、先ほどから聞こえる誰かの説明声に一通り反応し、またその風景などをカメラに収めていた。「双眼鏡で見た?」「うん、見たよー!」「ちょっと貸して」
ちょっと冷静になって双眼鏡で見るコロナは、あんまり広がってなかった。なるほど、肉眼でみてもコロナは大きく広がっておらず、薄雲の影響が多分に出てるようである。
「不気味でしょー?」「うん、すごいねー」小笠原で初めて見たときも、コロナを従えた黒い太陽の姿は、不気味だと思った。普段の太陽は、まったりとした黄白色の輝きでしかないが、コロナを見ると、「あぁ太陽って生きてるんだなぁ」としみじみ思ってしまう。ちなみに“すごい”はリトルの一流の誉め言葉である。
シャッターは、その瞬間に1回。あとは慌ててスピード替えて2〜3回。前回小笠原の時は、カメラのファインダー越しのダイヤモンドリングであったが、今回、写真は一発勝負にかけて、肉眼で見ることに主眼を置いた。やはり肉眼の方がきれいであり、その念願は叶った。
もう空はすっかり明るくなり、その瞬間が去ったことがわかる。あちこちで拍手がわく。しばらくして、聞き慣れた大声が叫んだ。「申し訳ありませんが、帰りの時刻も迫ってます。バスに戻って下さ〜い!」声の主はあのツアコンのIさんであった。わぁIさん居残りじゃなかったんだぁ。見られたんだねーと思うと嬉しくなった。いくつかあったトラブルに対するツアコンとしての苦労が、この瞬間、全てむくわれたのだと思う。握手を求めると、Iさんは笑顔を満面に浮かべて両手を差し出してくれた。その笑顔は、コロナの形を忘れさせるくらい、印象的だった。