黒い太陽 in ペルー

その5


【ついに『黒い太陽』と対面】

 月面のどこの谷であろうか。最後に残る光が徐々に小さくなり、そしてついになくなったその瞬間、小さくコロナが輝いた。怪鳥にとっては6年ぶりの、そしてリトルは初めて出逢う『黒い太陽』であった。

 どこからともなく歓声があがる。見えたぁ〜と言う感激が襲ってくる。しかし皆既継続時間は2分20秒ほど。すぐにカメラのファインダーを覗き、とりあえず何枚かシャッターを切る。下が砂地のせいか、単なる三脚の弱さか、シャッターの度にカメラが結構揺れる。とりあえず高感度のフィルムで良かった等と思いながら、1/4秒〜1/1000秒で、とびとびに切っていく。まぁこれだけスピードを替えておけば、1枚くらいは大丈夫であろう。ちょっと周りに目をやると、本当に地平線は赤く染まり、まさに一面が夕焼け空である。ちょっと観望もしたくなる。

 リトルの方は、先ほどから聞こえる誰かの説明声に一通り反応し、またその風景などをカメラに収めていた。「双眼鏡で見た?」「うん、見たよー!」「ちょっと貸して」

 ちょっと冷静になって双眼鏡で見るコロナは、あんまり広がってなかった。なるほど、肉眼でみてもコロナは大きく広がっておらず、薄雲の影響が多分に出てるようである。

 「不気味でしょー?」「うん、すごいねー」小笠原で初めて見たときも、コロナを従えた黒い太陽の姿は、不気味だと思った。普段の太陽は、まったりとした黄白色の輝きでしかないが、コロナを見ると、「あぁ太陽って生きてるんだなぁ」としみじみ思ってしまう。ちなみに“すごい”はリトルの一流の誉め言葉である。

【そしてダイヤモンドリング】

   

 段々と左上が明るくなり始め、皆既の終わりが近づいたことを知る。第三接触のダイヤモンドリングに備え、カメラのファインダーを覗く。左上には、プロミネンスが地を這うようにいくつも見え、とてもきれいである(この時、肉眼でも縁が赤く見えたそうである)。太陽をほぼ真ん中に入れると、その瞬間は肉眼で確認したいため、顔をあげる。左上はかなり明るい。もうすぐ、もうすぐだ・・・。「ピカッ」とわずかにきらめく。コロナがさっと姿を潜める。その間のほんのわずかな一瞬がダイヤモンドリングであった。「見たか?」「うん見た。きれいだったねー。ありがとう。」本当にエンゲージリングを買ってない怪鳥は、このダイヤモンドリングを見せることがリトルとの約束であった。(怪鳥注:その後ちゃんと真珠の指輪とイヤリングを買わされました(^^;)

 シャッターは、その瞬間に1回。あとは慌ててスピード替えて2〜3回。前回小笠原の時は、カメラのファインダー越しのダイヤモンドリングであったが、今回、写真は一発勝負にかけて、肉眼で見ることに主眼を置いた。やはり肉眼の方がきれいであり、その念願は叶った。

 もう空はすっかり明るくなり、その瞬間が去ったことがわかる。あちこちで拍手がわく。しばらくして、聞き慣れた大声が叫んだ。「申し訳ありませんが、帰りの時刻も迫ってます。バスに戻って下さ〜い!」声の主はあのツアコンのIさんであった。わぁIさん居残りじゃなかったんだぁ。見られたんだねーと思うと嬉しくなった。いくつかあったトラブルに対するツアコンとしての苦労が、この瞬間、全てむくわれたのだと思う。握手を求めると、Iさんは笑顔を満面に浮かべて両手を差し出してくれた。その笑顔は、コロナの形を忘れさせるくらい、印象的だった。


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