「今から、バスを出します。ただ、移動しても曇るかもしれません。残って晴れるかもしれません。判断は皆さんにお任せします。」おっと、そういうことをいきなりするか!旅行社にとって、それはかなり思い切った対応である。リトルにどうする?と声をかけるが、まぁ行くかぁと言うことで意見は一致する。「もちろん、機材等は持って行けません。あくまで手持ちのカメラだけにして下さい。」アナウンスは続く。
「手持ちの・・・って、FC−50って手で持てるけど・・・駄目かなぁ・・・。まぁ二人でこの機材一つだし、要は座席に座れればいいんでしょ。いいや、持ってっちゃえ。」えいや、で三脚を縮め、FC−50抱えてバスに向かって進む。周りを見渡すと、あれ、本当にみんなカメラしか持ってないなぁ・・・まぁいいか。「僕の分まで写してきて下さぁ〜い」我々のコースのツアコンであるIさんが大声で叫んでいる。彼は、過去に何度か日食ツアーのツアコンを経験しているのだが、過去のツアーにも参加した人の話で、雲男だと言うレッテルを貼られていた。Iさん、今回もまた居残りで見られないのかなぁと、ちょっと気にとめながら、1台目のバスに乗り込む。この時実に皆既25分前。
途中で雲が薄くなり、太陽がぼーっと覗いた。ポケットから日食フィルターを出して覗くリトル。「わぁ、もうだいぶ細くなってるよー。」確かに細く、皆既までもう間がないことを自ずと感じる。この程度ならかろうじて見えるかもしれないが、まだちょっと厚い雲もある。バスはさらに青空の方向へと走る。もう影(本影錘)が見えてる、と言う声も出始める。
あと少しで空が青くなると言うところで、タイムリミット。「ここで止まったらあかんて」 そういう声も聞かれたが、皆既が始まってしまっては元も子もない。ともかくバスは、道路わきの砂漠に止まった。
ようやっと入ってきた太陽は、もうほんとに細くなっている。ピントピントと思っても、念入りに合わせてる暇はない(ピント用に準備した二つ穴のキャップは、元の予定地に置いてきてしまったのだ)。ともかく太陽の縁がくっきり見えたと思うところでロックして、NDフィルターを外しにかかった。おそらくあと2分くらい。
「こっちに本影錘が見えるからみてごらん。」 誰だかわからないけど、他の人達に説明してる声が聞こえる。そっちの方向に目をやると、空が下向きの三角形に黒く染まっている。おお、本当だ。小笠原の時には確認できなかった本影錘である。太陽高度が低いのと、薄雲があって影が映りやすいのが手伝って、非常にくっきりと見える。本影錘がそこに迫っていると言うことは、皆既まではあとわずか!
「まだ太陽見なくていいから。シャドーバンド、は見えないね。」リトルは、その説明に自分の行動を合わせることにした。いよいよ太陽が細くなる。薄雲があるので、目を細めるだけで太陽が見える。みるみる太陽は小さくなる。