黒い太陽 in ペルー

その4


【阪急交通社の決断】

 「皆さん、よく聞いて下さい。」皆既まであと30分を切ったその時、突然、阪急の方からのアナウンスが入る。「現在、35km先では晴れてると言う情報が、警察の方から入りました。」35km先で晴れててもなぁ、晴れ間が来るには遠すぎるなぁ、と心でつぶやく自分。

「今から、バスを出します。ただ、移動しても曇るかもしれません。残って晴れるかもしれません。判断は皆さんにお任せします。」おっと、そういうことをいきなりするか!旅行社にとって、それはかなり思い切った対応である。リトルにどうする?と声をかけるが、まぁ行くかぁと言うことで意見は一致する。「もちろん、機材等は持って行けません。あくまで手持ちのカメラだけにして下さい。」アナウンスは続く。

 「手持ちの・・・って、FC−50って手で持てるけど・・・駄目かなぁ・・・。まぁ二人でこの機材一つだし、要は座席に座れればいいんでしょ。いいや、持ってっちゃえ。」えいや、で三脚を縮め、FC−50抱えてバスに向かって進む。周りを見渡すと、あれ、本当にみんなカメラしか持ってないなぁ・・・まぁいいか。「僕の分まで写してきて下さぁ〜い」我々のコースのツアコンであるIさんが大声で叫んでいる。彼は、過去に何度か日食ツアーのツアコンを経験しているのだが、過去のツアーにも参加した人の話で、雲男だと言うレッテルを貼られていた。Iさん、今回もまた居残りで見られないのかなぁと、ちょっと気にとめながら、1台目のバスに乗り込む。この時実に皆既25分前。

【そしてバスは走る】

「皆既の5分前まで走らせます。曇っていても、そこでバスを止めますから。それでよろしいですね。」バスの中は納得の雰囲気。運転手さんにそのことを告げ、とにもかくにもバスは砂漠の中の一本道を青空が覗く南東の方向に走り始めた。そのスピードの速いこと。100km/hはゆうに越えているんじゃないか、という迫力のある走り。窓の向こうでは、雲が後方へと流れていく。
 降りたあとの時間は限られている。ここで最後の準備をと、フィルムもかなり余裕があったが交換し、皆既前にピントを合わせることを想定して、NDフィルターも確認する。

 途中で雲が薄くなり、太陽がぼーっと覗いた。ポケットから日食フィルターを出して覗くリトル。「わぁ、もうだいぶ細くなってるよー。」確かに細く、皆既までもう間がないことを自ずと感じる。この程度ならかろうじて見えるかもしれないが、まだちょっと厚い雲もある。バスはさらに青空の方向へと走る。もう影(本影錘)が見えてる、と言う声も出始める。
 あと少しで空が青くなると言うところで、タイムリミット。「ここで止まったらあかんて」 そういう声も聞かれたが、皆既が始まってしまっては元も子もない。ともかくバスは、道路わきの砂漠に止まった。

【砂漠の中での観測準備】

 意外と皆さん冷静で、整然とバスから降りられる。時計は7:10。皆既予定時刻まであと5分。「どこでもいいな。」「任せるから。」リトルに声をかけて、バスからちょっと離れた砂の上に三脚をそえる。一所懸命気持ちを冷静に保ち、太陽へと望遠鏡を向ける。けれどもこれがなかなか入ってこない。焦るな、焦るな。

 ようやっと入ってきた太陽は、もうほんとに細くなっている。ピントピントと思っても、念入りに合わせてる暇はない(ピント用に準備した二つ穴のキャップは、元の予定地に置いてきてしまったのだ)。ともかく太陽の縁がくっきり見えたと思うところでロックして、NDフィルターを外しにかかった。おそらくあと2分くらい。

 「こっちに本影錘が見えるからみてごらん。」 誰だかわからないけど、他の人達に説明してる声が聞こえる。そっちの方向に目をやると、空が下向きの三角形に黒く染まっている。おお、本当だ。小笠原の時には確認できなかった本影錘である。太陽高度が低いのと、薄雲があって影が映りやすいのが手伝って、非常にくっきりと見える。本影錘がそこに迫っていると言うことは、皆既まではあとわずか!

 「まだ太陽見なくていいから。シャドーバンド、は見えないね。」リトルは、その説明に自分の行動を合わせることにした。いよいよ太陽が細くなる。薄雲があるので、目を細めるだけで太陽が見える。みるみる太陽は小さくなる。


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