黒い太陽 in ペルー

その3


【空を厚く覆う白い雲】

 「やな雲だね〜」口々にみんなが叫び出す。早めに現地入りした方の話では、明け方には必ず雲があり、しばらくすると消えるのだと言う。しかし、空にあるのは、気温の上昇とともに消える朝もやのような雲ではなく、べったりとして動かない雲であった。皆既食の予報時刻7:15までは、あと3時間を切っている。「こりゃ、駄目かもしれないなぁ」と言う気持ちが湧いてきた。
 とりあえず三脚に望遠鏡を乗せ、部分食の撮影と前もってピントを合わせるためのNDフィルターをねじ込み、接眼部にカメラを取り付けると、準備は全て終わる。

 朝食のサンドイッチを食べながら、怪鳥は某大学時代の先輩OBに声をかけた。OBさんが、オーストラリアの時の話をしてくれる。「もうね、厚い雲があって、みんな駄目だって思ってたんだよね。ただそん時は、それまでの旅行で結構満足していて、もう見えなくてもいいね、って言ってたんだよね。ところが皆既のほんと直前、数秒前に晴れてね。それで皆既が見られて。今度は終わったらまたすーっと雲に入り込むんだからねー。まぁそんなこともあるし。」確かにこのツアーは、あれもこれものハードな内容で、観光自体で満足している参加者は多かった。そういう意味では、似てるのかなぁとも思う。今回も土壇場で晴れるか?

 「でも、ハワイの時は駄目だったなぁ」別のOBさんが言う。ハワイの時は、某T社だったそうなのだが、ハワイと言うことで大丈夫だろうって旅行社が判断したのか、ツアコンを若手だけに任したらしい。ところが、全然わかってなくって、対応が全く出来ず、かなり不満が募っていたところへ、結局日食も曇。それでも日食が見られれば、と我慢していた参加者の不満が噴出して、ツアコンがやり玉に上がったそうな。「あんときの雪辱戦だ、なんて言う奴らが結構いるんだよね。あいつらの悲壮な気持ちに引っ張られると、今回もやばいかもしれない・・・。」そ、そんな縁起の悪いことを。しかしながら、空は厚い雲に覆われたままなのである。

【雲の中で部分食始まる】

 「部分食が始まりました。」 6:15、場内に阪急の女性のアナウンスが響く。始まったからって、太陽が見えるわけじゃないのだけれども。皆既予定時刻は7:15だから、部分食が始まったと言うことは、皆既まであと1時間を切ったという訳である。
 10分余り過ぎて、東の空に唯一ある雲の薄いところに太陽がはまり、ようやく欠けた太陽を確認。一応写真に収める。それも束の間、また厚い雲の向こうに入ってしまう。雲に動きはない。皆既まであと45分を切った。こりゃだめだぁ。「状況はかなり厳しくなってきました。」 大野さんの解説が段々と悲痛になってくる。

「曇の時は、影が見やすいのです。ここでは、東の向こうから影がやってくるのが見えると思います。残念ながら、こういう観測に、気持ちを切り換えなければならない、そんな状況になってきました。」と言うアナウンスに対して、「おいおい、何を言うのだおっさん!」これは、同じコースで参加した、あきらめない女性2名の突っ込み。でもまぁあきらめなければならないこともあるよね。マチュピチュも見たし、ナスカの地上絵も良かったし、まぁこれで皆既日食が見えたら、もっと良かったのだけれども、とりあえず一度はあきらめようと。それで見えたらめっけもんと言う気持ちに切り換えようとリトルと話すと、
「じゃぁ来年も連れてってくれる?」と言う返事がかえってくる。うーむ・・・、そ、それは・・・。


 その4へ   その2へ戻る  '94年ペルー日食のページへ戻る  FASのホームページへ戻る