Pons-Winnecke彗星由来の流星群の
2004年出現の可能性についての検討

〜中間報告 1〜 後半


[2004年の極大予報]

 これらの物質の軌道から求めた極大と、その接近距離、輻射点を表1にまとめる。また、地球軌道面通過時刻と昇交点黄経の関係をfig.7に示す。

表1. 2004年に接近する流星物質の予報値

放出年放出速度DATETIME
(JST)
Ls(2000)距離Δ
(AU)
輻射点V
(km/s)
αδ
1819+10.4m/s06/2401:3092.47+0.005223.2+46.814.1
1825+8.8m/s06/2323:4092.40+0.003222.8+46.614.1
1830+8.2m/s06/2322:4092.36+0.003222.8+46.814.1
1836+7.6m/s06/2322:1092.34+0.003222.9+47.014.1
1841+7.5m/s06/2322:1092.34+0.005223.2+47.214.1

*1841年放出物質は、計算上は時期がずれるため地球と接近しないが、
分布の広がりが大きい場合の参考値として掲載

 表1にまとめた通り、1819年〜1836年に放出された物質は6月23日22時〜24日1時(JST)頃に、0.003〜0.005[AU]に接近する。接近する流星物質の分布は、前述の通り地球による摂動の影響を大きく受けているため、各放出年の物質の極大が鋭いピークとなるかは微妙である。また、このように放出年の違ういくつかの物質の分布と相次いで遭遇するため、全体としてはなだらかな極大となると推定される。


*右側の目盛は、左側の太陽黄経に該当する時刻(JST)を示す

 1841年以降に放出された物質も、地球通過の数日後に通過する物質は存在する。これらは分布の広がりの大きさによっては、出現する可能性がある。もし出現する場合には、fig.7のグラフから6月23日18時〜22時頃と推測できる。

 以上より、流星の極大は6月23日の22時頃を中心になだらかに続く可能性が高いと考えられる。2004年の流星物質との遭遇の様子をfig.8に示す。


[出現数について]

 現段階で出現数を推定することは、非常に難しい。ポン・ウィンネッケ彗星からのまとまった出現自体が、1916年、1921年、1927年、1998年しかなく、サンプルとして比較することが難しいからである。

 唯一、1819年放出物質による分布は、1916年と2004年に共通し、また互いに近い速度で放出された部分が地球と接近しての出現となる。流星物質を一筋のトレイルとしてとらえ、その空間密度を概算すると、1916年の場合と2004年ではほとんど変わらない。

 実際には、地球との接近距離が2004年の方が圧倒的に遠い(1916年:0.0006AU、2004年:0.005AU)。一方で、1916年は1819年放出のトレイルが一番近く、他のトレイルは若干遠いが、2004年ではほぼ同じ距離に複数の物質の分布が存在する。これらの差違が実際の出現にどのように影響するということになる。

 1998年(後述)については、今後検討する予定である。その結果によっては、出現数についてもう少し述べることが可能になるかもしれない。
 なお、放出速度については、現時点で判明している1998年の起因物質よりも若干小さい。このため、光度分布はほぼ同じか若干明るめと推定され、明るい流星も十分に含まれることが期待される。


[まとめ]

 現段階における以上の結果をまとめると、次の通りとなる。
  1. 2004年には、ポン・ウィンネッケ彗星から放出された流星群が出現する可能性が高い。
  2. 起因となるのは、1819、1825、1830、1836年に放出された物質である。
  3. 地球との接近距離は、0.003〜0.005[AU]である。
  4. 1847〜1869年に放出された物質も、分布の広がり次第で地球と遭遇し、出現する可能性がある。
  5. 極大は6月23日22時を中心とする数時間である。
  6. 起因となる流星物質は、1910年および1916年に地球と接近し、引きちぎられた部分である。この先端部と地球が遭遇して流星が出現する。
  7. 出現数の予測は難しいが、今後1916年、1998年のケースとの関係を中心に検討したい。


[今後の懸案事項]

 今後、以下の事項について検討する必要があると考える。結果がまとまり次第報告したい。


[追記1−1916年の流星物質の分布]

 今回の計算の途中で、流星物質が1916年に地球と接近していたことが判明した。その分布図をfig.B1に示す。


※A1〜A2は、前回帰1910年に地球に接近したことによってできた不連続な部分

 図からわかるとおり、多くの流星物質がトレイル状となって地球に接近する。特に1819年に放出された流星物質は、地球軌道とほぼ交差していて、その接近距離は0.0006[AU]であり、大出現の可能性が高い。
 この年に接近する流星物質から予想される極大・接近距離・輻射点を図B1に示す。

表B1. 1916年に接近する流星物質の予報値

放出年放出速度DATETIME
(JST)
Ls(2000)距離Δ
(AU)
輻射点V
(km/s)
αδ
1819+9.9m/s06/2907:3298.007+0.0006219.4+52.414.7
1825+8.5m/s06/2904:1497.876+0.0026219.8+52.714.7
1830+7.8m/s06/2901:5797.785+0.0046220.2+52.914.7
1819-2+10.4m/s06/2907:3198.006+0.0032220.0+52.414.6

 この年は、ヨーロッパでHR100程度の出現があったとされる。1819年の放出物質から予想される極大は、世界時では6月28日の22時32分となり、ヨーロッパで条件よく観測できる。したがって、この放出物質による出現によるものと判断する。


[追記2−1998年の流星物質の分布(計算中)]

 前回帰の1998年には、日本でHR=200をこえる大出現が観測された。その分布図をfig.B2に示す。


※但し、計算された点が少なく、グラフの精度はあまりよくない。

 図から、1998年には流星物質がいくつかのトレイル状となって、地球に接近しそうなことが読みとれる。ただしこれらのほとんどは、地球通過とのタイミングが若干ずれており、完全には交差しない。おそらく分布の広さによって、これらの流星物質から流星のまとまった出現が起こったと推定される。

 なお、1998年に接近する部分についてはまだ計算途中の段階であり、今後詳細に計算し、検討を行う必要がある。現段階で、1998年の大出現の起因トレイルとなったと思われる有力なトレイルのデータを、表B2に示す。極大からは、1841年放出のトレイルのものが近い(実際の極大は21:30頃。ただし活動は6月27日19時〜28日4時の長時間に渡った)。

表B2. 1998年に接近する流星物質の予報値

放出年放出速度DATETIME
(JST)
Ls(2000)距離Δ
(AU)
輻射点V
(km/s)
αδ
1825+10.5m/s06/2806:4096.050222.6+47.614.2
1830+9.6m/s06/2803:1095.910222.8+47.714.2
1836+9.0m/s06/2801:2095.840222.8+47.714.2
1841+8.4m/s06/2722:1095.710223.0+47.814.3
1847+8.2m/s06/2718:1095.560223.1+47.814.2

※地球軌道と交差する場合(距離Δ=0[AU])の条件から逆算してある。
実際には通過するタイミングが若干ずれて地球と交差しない。
※今後の計算結果により、この値がずれる可能性は高い。


[追記3−近日点通過前・後における放出による分布の検討(1825年放出分)]

 1825年放出物質について、近日点通過25日前、近日点通過25日後の2ポイントで流星物質を放出し、分布の様子を検討した。その分布図をfig.B3に示す。


 図から、近日点通過後放出物質は、地球軌道の外側(図中下側)へ、近日点通過前放出物質は地球軌道側(太陽側:図中上側)へと分布がずれることがわかった。これらは、分布密度という視点からは、流星物質がまばらになり流星出現数減少が推測されるが、広く分布するという視点では地球軌道付近まで物質が到達していることが推測され、流星の出現が確実に起こることをうかがわせる。

 各分布からの予報値は以下の通りとなる。

表B2. 流星物質の予報値

放出年放出速度DATETIME
(JST)
Ls(2000)距離Δ
(AU)
輻射点V
(km/s)
αδ
1825
Δday=-25
+9.6m/s06/2323:1092.38+0.0018223.5+46.014.1
1825
Δday=0
+8.8m/s06/2323:4092.40+0.0033223.4+46.714.1
1825
Δday=+25
+9.5m/s06/2400:1092.42+0.0061223.6+47.114.1

 太陽黄経(Ls)は−側で若干小さくなり、このため極大予報は30分ほどずれる結果となった。したがって実際の軌道交差の部分は、これよりもさらに数十分前側にずれることが予想される。

 これらの傾向は、その他の放出年でもほぼ同様の傾向になることが推測される。今後、1819、1830、1836年でも計算する予定である。


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