2004年のトレイルデータからのしし座流星群の予報
佐藤 幹哉
2004.11.1 公開開始
しし座流星群の母天体であるテンペル・タットル彗星(55P/Tempel-Tuttle)からのトレイルの2004年の状況を計算し以下にまとめました。しし群は1998年から2002年にかけて非常に活発な活動を見せ、日本では特に2001年に1時間2000個を越える流星雨が見られました。しかし、今回の結果からは、残念ながら2004年の活動はあまり活発でないと考えられます。ただし(世界的に見れば)観測できそうなピークがいくつかある、という状況です。
●各トレイルの分布図
図1・図2に各トレイルの今年の分布の様子を示す。放出速度は、1866年よりも前のトレイルについてはおおむね-20〜+20[m/s]の範囲内で検討した。
図1 1932年と1965年のトレイル分布
図2 おもなトレイルの分布
1699年〜1899年:全てのトレイルを図示
901年〜1666年:0.003[AU]以内に接近するトレイルのみ図示
●今年0.003[AU]以内に接近するトレイルのデータ
今年、地球に0.003[AU]以内に接近するトレイルのデータを示した。なお放出は901年〜1965年の期間で、1866年よりも前のトレイルについては放出速度がおおむね-20〜+20[m/s]の範囲で検討した。
1699年までの全トレイルを掲載した詳細データはこちら。
表1 2004年に0.003[AU]以内に接近するトレイルのデータ
放出年 | 放出速度 | Δa | 日付 | 時刻 | 太陽黄経 | ΔR(AU) | fM値 | αdeg | δdeg | V(km/s) | 期待される出現規模 |
1965 | 120.96 | 1.35 | 11/17 | 18:22 | 235.315 | -0.0017 | 0.94 | 153.61 | 21.62 | 70.81 | 出現しない |
1733 | 20.82 | 0.22 | 11/20 | 06:26 | 237.840 | -0.0023 | 0.10 | 155.19 | 20.76 | 70.80 | 中規模な出現 |
1333 | 14.27 | 0.14 | 11/19 | 15:39 | 237.218 | +0.0018 | 0.022 | 154.95 | 21.28 | 70.64 | 小規模な出現 |
1167 | 13.10 | 0.13 | 11/21 | 18:54 | 239.374 | +0.0029 | 0.0049 | 156.27 | 20.54 | 70.67 | 出現しない |
1135 | 11.75 | 0.12 | 11/21 | 17:21 | 239.309 | +0.0006 | 0.0040 | 156.21 | 20.48 | 70.73 | 小規模な出現? |
※時刻は日本時。
※ΔRは黄道面におけるトレイルの日心距離−トレイルの降交点における地球の日心距離[AU]
※fM値は、トレイルの引き延ばされ具合を表す指数で、放出速度が近い場合のトレイル濃度の目安
●各トレイルについてのコメント
残念ながら、いずれも日本からは観測できない時間帯である。
- ◆1965年放出トレイル
- 放出速度が約120[m/s]と、とても大きい。このような高速で放出されるダストは皆無か有っても相当小さいもので、おそらく検出は困難である(または非常に微光の流星に限られる)。
- ◆1733年放出トレイル
- 今年もっとも出現の可能性のあるトレイル。ただし距離は-0.0023[AU]と若干遠いため、中規模の極大までと推定される。
昨年のしし群は太陽黄経で236.8度付近にZHR=約60程度のピークが観測されている。このピークは1733年のトレイルに起因する可能性がある。今年の状況は昨年と比較的似通っており、同じ程度の出現が観測される可能性がある。
表2 昨年と今年の1733年トレイルのデータの比較
観測年 | 放出年 | 放出速度 [m/s] | 太陽黄経 | ΔR [AU] | fM | 微光 |
2003 | 1733 | 17.32 | 236.888 | +0.0036 | 0.16 | ZHR=約60 |
2004 | 20.82 | 237.840 | -0.0023 | 0.10 | ? |
今年の方が接近距離は近いが、fM値は今年の方が小さくトレイル濃度は小さい。
また放出速度が約21[m/s]と比較的大きいので、流星光度は暗めとなる可能性が高い。
- ◆1333年放出トレイル
- Vaubaillonさんが最初に見いだしたトレイル(詳しくはこちらを参照のこと)。fM値が1733年と比較して約5分の1と、トレイル自体の濃度が小さい。距離も+0.0018[AU]とあまり近づかず、小規模な極大までと推定される。
- ◆1167年放出トレイル
- fM値、距離とも条件は悪く、検出は困難。
- ◆1135年放出トレイル
- fM値が0.0039ととても小さい。ただし+0.0006[AU]と最も接近するので、もしかしたら小規模な極大が観測されるかもしれない。放出速度は1733年トレイルよりも小さいため、期待される流星の光度は明るめである。
※なおこのトレイルについては、Vaubaillonさんも検討してくれました。それによれば、このトレイルは摂動をかなり受けているため、ごく一部だけが地球に近づく状況とのことでした。やはり観測は少し難しいのかもしれません。
◆1001年放出トレイル(予想極大:11月9日)
上記のほか、Vaubaillonさんがこのトレイルの接近を最近新たに見いだしました。放出速度が速い(47〜50[m/s])ので実際の出現は微妙と考えますが、興味深いです。なお出現は11月9日8時台〜9時台(一部〜12時台・日本時)と、通常よりも10日ほど早い時期です。
●リンク
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