ジャコビニ再び

 当会寺久保氏による、1999年のジャコビニ群のエッセイです。


ジャコビニ再び

                  寺久保一巳

 昨年のジャコビニ流星群は、私が今まで見てきた流星群の中で、一番印象に残っている。ひじょうに鋭い極大のピーク、ゆっくりと線が移動するように流れるその流れ方、ぼわっとしてくだけるようなその性状、一度見たら忘れられない流星群である。そのジャコビニ流星群の季節が再びやってきた。あの流星群に再び巡り会うため、私は信州方面へ車を走らせた…。

 ジャコビニ流星群は、1933年と1946年に流星雨を降らせたことと、1972年に流星雨が期待されたにも関わらずほとんど流れず期待を裏切ったこと、で有名な流星群で、母彗星の2回帰ごとの13年に1度、出現の期待がかかる。前々回の1985年と前回の1998年にはかなりの出現を見せたものの、その1年後となる今年1999年の出現可能性は低い。それでも運良く昨年の大出現に出会えた私は、1つでもあの独特の性状を持つ流星に出会えたく、観測準備を進めていた。

 例年、この時期の天気は変わりやすい。今年も例外ではなく、ジャコビニ極大夜頃の天気予報は日に日に変化しており、観測地の選定に頭を悩ます毎日。当日、一番晴天の可能性の高い長野県原村方面に観測に行くことに決定し、同好会のメンバー7人で中央高速に乗ったが…。

 この日は3連休の初日(今年のジャコビニ群極大が10月9日昼間にあたると予想されたので、一番流星が多く見られると思われる9日夜に観測に臨んだ)に当たっていることをすっかり忘れていた。中央道の渋滞は35km。余裕を持って13時前には出発したものの、夕方までに観測地まで着けるかどうか…。さらに不安を倍加させるように、予報では晴れだったはずの天気はどん曇り、場所によっては雨でも降りそうな様子。不安90%を抱えながら、なんとか夕方には適当な場所までたどり着いた。観測場所として陣取ったのは車山付近の駐車場。ほとんど晴れ間のない曇天ながら、この雲が切れることを祈りつつ(というかもう移動している時間もないので)暗くなるのを待った。

 まわりが暗くなってきても、天気は一向に回復しない。たまにわずかな晴れ間が覗くと、星がきれいに見えていることから、空は暗いようだ。こんな状態だとまともに観測なんてできないなあ、と思ってよそをむいていると、「流れた!…ジャコビニだ」な、なんだって流れたって?貴重なジャコビニ群を見逃してしまった。今年は昨年とは違って、ジャコビニ群が見られたとしても1時間に2〜3個程度だろう。その上この空、この先もうジャコビニ群は見られないかも知れない。なんとも残念、と思っていると「ジャコビニ?」細い線のようなものがすーっと流れた。この性状は?間違いないジャコビニだ。その後もあちこちから「ジャコビニだ」の声が。あいかわらず雲が多い空ながら、その雲間をぬってちらほらとジャコビニ群が飛んでいるようだ。ひっきりなしに曇ってしまう空で観測はできなかったので、変わりに各自見た数を数えてもらうことにした。数えてみると、けっこうな数になった。19:20〜20:20(時間やや不正確)の1時間程度の間に一番多く数えた西野さんで6個、私も4個のジャコビニ群の流星をとらえた。その後1時間ごとに2個、2個の流星、合計8個(私の場合)の群流星をとらえた。あえて平均雲量を出すと9位の空でである。もしこれが快晴の空であったら、いったいどれほどの数のジャコビニ群が捉えられたのであろうか。恨めしい空である。

 それでも予想以上に多くのジャコビニ群を見ることができ満足半分、天気が良ければもっとたくさんのジャコビニ群が見られたかと思うと残念半分、のジャコビニ流星群だった。

 

 その後に集まった他の観測データを見ても、今のところはっきりした大出現の記録はないようである。いったい我々が見たジャコビニ群の活発な活動(と思われるもの)は何だったのであろう?

おわり


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