Schwassmann-Wachmann彗星(73P)由来の
ダストトレイルの2006年における分布
- 2006.3.31 公開開始(暫定版)
- 2006.5.17 トレイルの分布図(黄道面)追加
- 2006.5.18 2022年の状況を追加
[概要]
2006年に回帰するSchwassmann-Wachmann彗星(73P)について、過去の回帰時に放出したダストトレイルが、2006年にどのように分布したかを計算した。
ダスト放出の条件:
- 放出時期:1925年〜2001年における近日点通過時に放出
- 放出方向:彗星の運動方向とその逆方向
- 放出速度:-20m/s(彗星運動と逆方向)〜+20m/s(彗星運動方向)
[ダスト・トレイルの分布状況]
各トレイルの降交点における日心距離と降交点通過時刻をグラフに表した。
図1 2006年におけるダストトレイルの分布状況

R:各ダストトレイルの降交点における日心距離
T:各ダストとテイルの降交点通過時刻(2006年)
降交点の位置を地球が通過するのは、おおむね5/31である。このため、図中の×印の位置にダストトレイルが分布すると、流星出現の可能性が高くなる。
今回の場合、この時期に降交点を通過するトレイルで最も接近するのは、1946年放出のトレイルであるが、それでも約0.05[AU]程度までしか接近しない。流星出現という点では、かなり大きい値である。また摂動で分布が折れ曲がっている1952年のトレイルは、降交点では地球と遭遇しないが、地球軌道とどのくらい接近するか、検討する必要がある。
表1におもなダストトレイルの分布状況をまとめた。
表1 おもなダストトレイルのデータ(降交点)
| 放出年 | Date(UT) | Time | LS(2000) | Δr(AU) | 放出速度 (m/s) | Δa | fM | α | δ | V(km/s) | 備考 |
| 1946 | 2006/05/31.62 | 14:55 | 69.939 | -0.047 | -2.78 | -0.002 | 0.27 | 206.86 | +29.05 | 13.03 |
|
| 1941 | 2006/05/31.58 | 13:51 | 69.896 | -0.049 | -1.64 | -0.001 | 0.18 | 206.54 | +28.81 | 13.04 |
|
| 1935 | 2006/05/31.55 | 13:18 | 69.874 | -0.050 | -1.13 | -0.001 | 0.14 | 206.40 | +28.70 | 13.04 |
|
※時刻(Date, Time)は地球が各トレイルの降交点の黄経を通過する時刻。
ダストトレイルが接近する場合は、極大時刻と等しくなる。
降交点位置で最も接近するダストトレイルは、1946年放出の0.047[AU]である。経験的に、ダストトレイルの分布で大出現をする場合は0.001[AU]以内である必要があり、またある程度まとまった出現がある場合でも0.005[AU]以内で起こっていることから、今年、これらのダストトレイルからまとまった出現が見られる可能性は低いと推測される。
なお、黄道面におけるダストトレイルの分布図(直径0.001AUと仮定)を以下に示す。これまで出現のあったしし群や、ジャコビニ群などの状況と比較すると、ダストトレイルの位置が非常に遠いことがわかる。
図2 2006年におけるダストトレイルの分布図(黄道面)

[降交点以外での接近状況]
これらのダストトレイルは、軌道傾斜角が11〜12度と小さいため、地球との最接近位置は降交点以外となる。この状況をおもなダストトレイルについて計算した。
表2 おもなダストトレイルのデータ(最接近点)
| 放出年 | Date(UT) | Time | Δr(AU) | 放出速度 (m/s) | α | δ | V(km/s) |
| 1952 | 2006/05/20 | 12:00 | -0.043 | -6.04 | 211.48 | +24.69 | 13.88 |
| 1946 | 2006/05/24 | 05:00 | -0.037 | -2.13 | 208.57 | +26.77 | 13.36 |
| 1941 | 2006/05/23 | 18:00 | -0.038 | -1.20 | 208.44 | +26.43 | 13.39 |
| 1935 | 2006/05/23 | 13:00 | -0.039 | -0.79 | 208.38 | +26.28 | 13.41 |
※時刻(Date, Time)は地球が各トレイルと最接近する時刻(精度:1時間)。
ただし、前後数時間において、接近の状況にそれほど差は生じない。
どのトレイルも降交点よりは若干接近距離が小さくなったが、それでも0.04[AU]程度であり、まとまった出現があるような状況ではない。
また降交点での遭遇がなかった1952年のトレイルは5/20頃に最も接近することがわかった。摂動の影響が大きいので、他のトレイルよりも分布が広いことも考えられるが、それでも出現すると考えるには厳しい値と判断される。
なお、輻射点については、地球軌道と交差していないため、もし流星が出現した場合でも多少の誤差が見込まれる。また流星速度が小さく、天頂引力効果も大きいため実際の観測の際には注意が必要である。
なお自動観測などとの結果比較用に、各トレイルの軌道要素を下に示す。
表3 おもなダストトレイルの軌道要素
| 放出年 | T | q | e | ω | Ω | i |
| 1952 | 2006/06/10.98 | 0.950 | 0.690 | 199.00 | 70.06 | 11.90 |
| 1946 | 2006/06/12.52 | 0.944 | 0.692 | 198.93 | 69.93 | 11.58 |
| 1941 | 2006/06/12.31 | 0.942 | 0.693 | 198.92 | 69.89 | 11.50 |
| 1935 | 2006/06/12.23 | 0.942 | 0.693 | 198.92 | 69.88 | 11.47 |
※(元期:最接近点の日の0hUT)
[まとめ]
2006年におけるSchwassmann-Wachmann彗星(73P)由来のダストトレイルの分布を計算した。トレイルは0.03[AU]以内に地球と接近することはなく、流星のまとまった出現の可能性は低いと推測された。
ただし、ダストトレイルの計算はある仮定の中で行われる理論計算であるため、流星1つからでも軌道が求まるような自動観測の場合まで、流星出現の可能性を完全に否定できるものではない。理論との比較をする上でも、軌道が求まるような観測は大変重要である。
[将来の出現]
2006年は残念ながらダストトレイルとの距離が遠いが、計算上、将来的には2022年に1995年放出のダストトレイルと接近する。放出速度が-27m/sと大変速いが、1995年は彗星が分裂した年であり、2006年の彗星核の分裂の様子をみると、1995年においても相当量のダストが放出されていると推測される。
したがって、2022年にはある程度の群活動が期待できる。
図3 2022年におけるダストトレイルの分布図(黄道面)

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