Wirtanen彗星由来の流星群出現の
可能性についての検討

−2001年〜2002年−

FAS府中天文同好会 佐藤幹哉


[概要]

 2002年に回帰するWirtanen彗星(46P/Wirtanen)からの流星物質を、木星の摂動の影響についてシミュレートし、2001年および2002年に地球に接近するかどうかを検討した。
 その結果、流星物質は最も接近する場合約0.015AUまで接近し、可能性は低いながらも流星群の出現は期待される結果となった。

[彗星軌道概要]

 Wirtanen彗星は、元来近日点距離(q)がやや遠い彗星だったが、主に1972年、1984年の接近によって、地球にかなり近づく軌道となった。
 2002年の回帰は8月26日で、このときの軌道はq=約1.06と地球軌道に0.075AUまで接近する。
 なお、今回の計算に使用した彗星の軌道要素は、木下一男氏計算のものを使用した(表1に示す:但し値は佐藤の方で丸めてある)。

表1. Wirtanen彗星(46P/Wirtanen)の軌道要素
近日点通過時刻近日点距離離心率近日点引数昇交点黄経軌道傾斜角
TqeωΩ
1901/06/13.91.63980.5450330.2997.4810.29
1908/04/14.81.63210.5462330.3797.4110.31
1915/01/11.61.43030.5816335.1495.7611.08
1921/05/12.01.43150.5814335.2695.7011.08
1927/11/15.31.61200.5444343.5087.2413.38
1934/07/18.51.62030.5430343.6087.2013.37
1941/03/22.31.62660.5420343.5987.1713.37
1947/12/02.91.63500.5405343.5687.1813.36
1954/08/13.51.62530.5420343.5587.1613.38
1961/04/15.21.61810.5433343.5387.1413.39
1967/12/15.61.61240.5442343.6387.0713.40
1974/07/05.71.25560.6143351.8684.2112.27
1980/05/22.61.25560.6143351.9784.1612.27
1986/03/19.11.08460.6520356.0782.3411.68
1991/09/20.61.08330.6522356.1782.2911.68
1997/03/14.11.06380.6567356.3482.2111.72
2002/08/26.71.05880.6578356.4082.1711.74
2008/02/02.41.05750.6581356.3582.1811.74
2013/07/09.11.05210.6593356.3482.1611.76
2018/12/12.61.05530.6588356.3582.1611.75
2024/05/18.31.05480.6588356.3182.1711.75

[軌道計算の概要]

 市販ソフト「Excel」のワークシートを利用して行った。シミュレート間隔は1日おきで、数値積分の手法などは用いず、木星および太陽との重力の影響のみで運動させた。このため、木星以外の惑星の摂動は含まれない。
 また、ある程度の計算誤差が生じている。その値はあらかじめ計算されたWirtanen彗星の軌道について、最大、T=約15日、q=0.014AU程度である。この影響は彗星軌道要素での計算を元に、2回帰おきに修正し、誤差を補正している(補正方法が正しいかどうかは、現在のところ未検討である)。
 さらに、光圧などの影響も考慮していない(木星の摂動に対して、影響はかなり小さいと考えられるため)。

[シミュレート条件]

 彗星の各回帰で近日点通過の瞬間に、進行方向について-30m/s〜30m/s(マイナスは進行と逆方向)の速度で流星物質を放出させた。
 放出は1915年〜1980年の回帰時で、まず速度を5m/s間隔で計算し、地球軌道に接近するものについてはさらに速度の間隔を小さくして計算した。

[結果]

1.全体像

 図1は、2002年の回帰について、流星物質を放出した年毎に結んでグラフ化したものである。(多くの物質は木星にかなり接近し大幅に軌道を変えてしまう。このため、条件範囲内でも連続性が見い出せず、今回のグラフに含まれていない部分がある。)

 X軸は地球軌道面通過時刻(T1)、Y軸は地球軌道面通過時の太陽との距離(r)である。
 流星物質は2度(1972年、1984年)の木星との接近により、彗星の前後で大きく軌道を変化させ、かなり曲がったグラフとなった。
 各物質の軌道と地球軌道の交差は、12月12日頃である。2001年および2002年において、約0.015AU〜0.03AU程度までは、接近する流星物質の帯が存在する結果となった。

2.2001年の接近

 図2は2001年について、図を拡大したものである。

 計算上最も接近するのは1954年に放出された流星物質で、以下1927年、1941年と続く。多くの年では、ちょうどこの辺りでグラフが折り返す状態となり、比較的流星物質がまとまって回帰する。このため帯が濃い状態となる可能性がある。
 また、それぞれの回帰物質の軌道要素から、流星物質の地球軌道面通過における地球との接近時刻、その太陽黄経、地球軌道との距離、予想輻射点、流星速度についてまとめたのが表2である(接近距離が0.03AUよりも小さいもの)。

表2. 2001年に接近する流星物質とその要素
放出年放出速度接近時刻太陽黄経距離輻射点流星速度
(m/s)年月日(2000.0)(AU) α  δ (km/s)
1954152001/12/1011h258.050.0151゜-22゜8.7
192772001/12/1118h259.370.0253゜-26゜8.7
192782001/12/0219h250.270.0254゜-6゜8.6
194192001/12/1204h259.800.0263゜-29゜8.8
191582001/12/0104h248.630.0295゜-4゜8.6
彗星本体2001/12/1412h262.170.07612゜-52゜9.8

 先述したとおり、各流星物質の帯は折り返すように2度接近する(1927年放出の物質は、これがほぼ同じ距離となったもの)。このため、接近日が早まり輻射点がかなり北側のグループと、接近日は彗星に近く輻射点が南側のグループに分かれる。
 輻射点の位置が彗星よりも北側なのは、軌道傾斜角が彗星と比較して変化していることによる(彗星本体の軌道傾斜角:11゜、北側:1.2〜1.5゜、南側:4.5〜6.0゜)。
 なお、計算誤差を考慮すると、この2グループの中間(遷移状態)にあたる流星物質と接近する可能性も考えられる。
 実際に出現した場合の輻射点は、日本からは夕方の南〜南西の空となり、観察できる位置である。また流星の速度は約9km/sと極めて遅い。

2.2002年の接近

 図3は2002年について、図を拡大したものである。

 2002年は各年の放出された物質が、ほぼ束になるように通過するが、距離は約0.03AUとやや遠目である。
 また木星との接近により摂動を大きく受ける部分に当たるため、小さな条件変化で大きく軌道が変わり、流星物質自体の分布は希薄となっている可能性が高い。ただし、広がりは大きいと予想される。

表3. 2002年に接近する流星物質とその要素
放出年放出速度接近時刻太陽黄経距離輻射点流星速度
(m/s)年月日(2000.0)(AU) α  δ (km/s)
1934-42002/12/1120h259.180.0287゜-29゜8.9
1915-32002/12/1100h258.360.0286゜-26゜8.7
1941-52002/12/1109h258.720.0286゜-27゜8.8
1927-42002/12/1104h258.520.0286゜-25゜8.7
1921-42002/12/1118h259.120.0287゜-29゜8.9
彗星本体2002/12/1418h262.170.07612゜-52゜9.8

 表3は表2と同様に2002年についてまとめたものである。2001年のように2グループに分かれることはなく、どの放出年の流星物質もかなり似た軌道要素をもつ。このため、12月11日を中心としたかなり狭い範囲で地球と接近する。予想輻射点も近い。

[※追加]

 2001年より誤差を若干小さくしたワークシートを用いて計算を始めたので、2002年の結果について計算をし直してみた。
 結果はあまり変わらず、12月11〜12日に、約0.03AUまで接近する結果を得た。輻射点はくじら座β星(デネブカイトス)のさらに南、ちょうこくしつ座となる。夕方の南の空、地平線の上高度約25度である。もし流れたとすると、南から経路の長い、ゆっくりとした流星となって見られるはずである。


降交点
/最接近
接近時刻太陽黄経距離輻射点流星速度放出年放出速度
年月日(2000.0)(AU) α  δ (km/s)(m/s)

昇交点
2001/12/1412h262.170.147347゜-58゜10.4彗星本体
最接近
2001/12/0814h256.150.08513゜-51゜9.8

昇交点
2001/12/1111h259.060.10421゜-22゜9.31915
-3.2
最接近
2001/12/1211h260.090.0286゜-30゜8.9

昇交点
2001/12/1114h259.200.10822゜-21゜9.21921
-4.0
最接近
2001/12/1216h260.300.0327゜-30゜8.8

昇交点
2001/12/1116h259.280.10321゜-22゜9.21927
-3.3
最接近
2001/12/1215h260.260.0307゜-30゜8.9

昇交点
2001/12/1117h259.340.09920゜-23゜9.21934
-3.6
最接近
2001/12/1215h260.260.0307゜-30゜8.9

昇交点
2001/12/1118h259.360.10221゜-22゜9.21941
-4.3
最接近
2001/12/1216h260.300.0327゜-30゜8.9

昇交点
2001/12/1120h259.440.10021゜-23゜9.21947
-5.7
最接近
2001/12/1219h260.430.0347゜-31゜8.8

昇交点
2001/12/1200h259.640.08920゜-26゜9.21954
-7.7
最接近
2001/12/1219h260.430.0358゜-32゜8.9

昇交点
2001/12/1207h259.910.08219゜-29゜9.11961
-12.4
最接近
2001/12/1222h260.550.0439゜-35゜8.9

[考察]

 彗星軌道自体が木星にかなり接近する軌道のため、放出された流星物質も大きく軌道を変える。その中で、特に1972年頃と1984年頃に、ともに近日点距離qを小さくするタイミングで木星に接近した狭い条件範囲の流星物質だけが、彗星の前後1年程度の範囲に存在する結果となった。
 木星と接近距離が小さい場合、計算誤差も大きくなるため、条件の小さな差で結果に大きく影響を与える。
 今回計算された流星物質の接近距離は約0.015〜0.03AUで、流星群出現の条件を十分に満たすものとは言えない。しかしながら、誤差範囲や、実際には進行方向以外に放出される塵があること、近日点以外での放出もあることなどを加味すると、流星群出現の可能性は、低いながらもあるのではないか考えられた。
 2001年は、流星物質の帯がやや濃いため、もし出現した場合は、多少まとまった出現となる可能性がある。また、出現群は2グループに分かれる可能性がある。
 2002年は、流星物質の帯はかなり希薄なため、多くの出現は望めそうにない。ただし軌道変化の影響を受けやすい部分のため、物質分布が広がっていた場合、少ないながらも流星が出現する可能性が考えられる。


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