今非常に話題となってるこの彗星です。特に3月末には地球に非常に近づき、1等よりも明るくなるとの予報が出ております。しかし本当にそんなに明るく見られるのでしょうか。
彗星の明るさを予想するには、大ざっぱに以下の2つの要素があります。
1.地球と彗星との距離
2.太陽と彗星との距離
3月末の接近時に1等より明るく見えるときは、上の1の要素が大きく影響します。一般にモノの明るさは、距離の2乗に反比例しますから、地球に彗星が近づけば近づくほど明るくなるわけで、しかも距離の2乗で影響します。
ところが一つ懸念されることがあります。それは彗星が近づけば、彗星の見かけの大きさ自体が大きくなってしまい、拡散してしまうことにあります。同じ明るさでも、拡散してしまえば、それだけ単位面積当たりの明るさが暗くなってしまうのです。
3月末1等の彗星と言うのを(必ずしも正確ではありませんが)イメージしてみますと、例えば近眼の方(怪鳥もかなりのド近眼です)が眼鏡を外して星を見るとします。そうすると、恒星はぼやけてしまい、暗い星はみえなくなってしまいます。明るい1等星なんかは、ぼやけながらもなんとかぼーっと見えるでしょうが、こうして見たぼーっとした1等星と、この彗星のぼーっとしたのがだいたい同じ明るさ、と言うものなのです。
これは空の暗い、条件のよい空での話です。ではここ府中のように光害がひどく、バックの空が明るい場所ではどうなるでしょうか。例えば、薄もやがかかってしまって、1等しか見えない空だったとします。そうすると、拡散した1等の彗星はバックの明るさに紛れてしまい、まず見えないことでしょう。3等まで見えるような空だったとしても、拡散した彗星の大半が紛れてしまい、肉眼では非常に貧弱な姿にしか、あるいはもしかしたら見えないかもしれないです(実際にはどうなるか、ちょっとわかりませんが)。
つまり、1等の明るさに見えると言っても、普段恒星を見るような1等の感覚とはかなり違ってきますので、注意が必要なわけです。もっとも、双眼鏡や望遠鏡を使えば、大きく広がった彗星が簡単に楽しめるでしょうし、しかも移動速度が速いですから、星の間をどんどんと移動していく姿が見られるでしょう。これだけでも非常に興味深いものだと思います。
逆に注目したいのは、予報光度こそ少し暗くなりますが、4月の夕方の空に回ってからです。この頃は地球からの距離はどんどん離れていきますが、太陽との距離は近づきますので、明るさはほとんど変わりません。
太陽との距離が近いと、まず彗星が反射する太陽光線が強くなります。また彗星自体が熱せられて揮発物質の蒸発(昇華)が活発になり、彗星自体の輝きが増加します。またどんどん彗星本体が壊れることによって彗星の周りに漂う物質が多くなり、反射する部分が増加します。こうして太陽に近づくほどに彗星は明るくなります。また、尾も発達していき、いわゆる「ほうき星」と言った姿になっていきます。
3月の接近の頃の彗星は、地球と同じで太陽からの距離が1天文単位くらいです。このくらいの位置では、必ずしも彗星の姿は見事とは言えません。1天文単位をきって、どんどん太陽に近づいていきますと、上記の通り彗星の姿は発達し、長い尾をひいてくる可能性が高くなります。従って、4月の太陽に近づいていく彗星の方が、3月末の地球接近の頃よりもむしろ立派な姿になるのではないかと、怪鳥は考えるのです。
このようなことは、1986年のあのハレー彗星の時に観察されました。あの時、光度予報の上では地球への接近時(当時の4月上旬)の方が明るかったのですが、むしろ太陽からの距離がまだ近かった頃(当時の2月末〜3月中旬)の方が、尾を引いた立派な姿で観察されました。
もっとも、オースチン彗星のように、太陽に近づいてから、揮発物質の活動が低調になった例もありますし、観測してみるしかないわけですけども。
百武彗星が必ずしもハレー彗星のような大彗星として見られるとは限りませんが、4月に入ってからもずっと楽しめる彗星であることだけは確かなようです。特に、ウエスト彗星(1976年頃)を知らない世代(当時私は、小学2年でした)としては、大彗星はずっと見ていないわけで、どうしても期待してしまいます。
これから約2ヶ月の間、この百武彗星に注目していこうではないですか!
(2月28日記す)