中秋の名月の晩に月食が見られるのは?


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 残念ながら台風の影響でほとんどの地方で見られませんでしたが、1997年9月17日の月食は、中秋の名月のその晩に皆既月食が起きると言う珍しいものでした。

 一部マスコミでは「この現象が次に見られるのは130年後です」と言う報道がされ、果たして「何が?」と言う疑問を抱かせるようなものもあったそうです(同好会のメンバーから聞きました)。そこで名月の頃の月食について、気ままに調べてみました。

 まず中秋の名月の定義は旧暦の8月15日の晩です。1997年は9月16日が旧暦8月15日なので、従って翌朝の9月17日に起きた月食は名月の晩と言うことになります。名月が満月なのは当たり前と考えがちですが、新月(月齢0)が旧暦の1日なので、旧暦15日は月齢で平均14となり、満月(月齢の平均で14.8くらい)よりも前に当たる場合が多くなります。また逆に新月〜満月間が早くなることもあり、その具合では名月の晩の前日に月食と言う場合もあります。当然、月食が起きても日本で見られない場合もあるわけです。

    中秋の名月の頃の月食

    月食−名月  関係  詳 細
1968  10/ 6−10/ 6  当日  名月の晩に皆既月食
1978   9/16− 9/17  前晩  名月の前の晩が皆既月食(東日本で月没帯食)
1997   9/16− 9/16  当日  名月の晩に皆既月食(北海道では月没帯食)
2033  10/ 8−10/ 7  翌晩  名月の翌晩が皆既月食
2042   9/29− 9/28  翌晩  名月の翌晩が部分月食
2052  10/ 8−10/ 7  翌晩  名月(閏月)の翌晩が部分月食
2061   9/29− 9/28  翌晩  名月の翌晩が皆既月食(月出帯食)
2062   9/18− 9/17  翌晩  名月の翌晩が皆既月食
2109   9/ 9− 9/ 9  当日  名月の晩に九州以東で部分月食(月出帯食)
2126  10/ 1−10/ 1  当日  名月の晩に部分月食
2127   9/20− 9/21  前晩  名月の前の晩が皆既月食
2145   9/30−10/ 1  前晩  名月の前の晩が部分月食(月没帯食)
2146   9/20− 9/20  当日  名月の晩に東北などで部分月食(月出帯食)
2164   9/30− 9/30  当日  名月の晩に部分月食
2173   9/21− 9/21  当日  名月の晩に部分月食
2191  10/ 2−10/ 3  前晩  名月の前の晩が九州の一部で部分月食(月没帯食)
2192   9/21− 9/21  当日  名月の晩に皆既月食

注: 月没帯食:月が欠けたまま沈むこと
   月出帯食:月が昇ってきたときにすでに欠けてること
   月食の日付は夜を基準にしてます。(9月17日早朝→9月16日の晩)
   半影月食は除いてあります。
 こうして見ていくと、前回名月の晩に月食が見られたのは1968年10月6日の皆既月食で、今回は29年ぶりだったことがわかります。そして次回名月の晩に月食が見られるのは、2109年9月9日で112年後になります。この時、東京では月が欠けたまま昇ります。ただこれは、九州の一部より西では月が昇る前に月食が終わってしまいますので、「全国で」と言うことになると、2126年10月1日の部分月食となるわけです。これが129年後ですから、約130年後と報道された訳でしょうか。

 皆既月食となるとさらにずっと先で、2192年9月21日、実に195年後となります。いやー、その頃まで中秋の名月を見るなんて風習、日本に残ってますかねー(残っていて欲しいと思いますが)。いずれにしても今後、中秋の名月の晩に月食を見ることは、私にはちょっと無理そうですね。

まとめ

(ただしそれぞれは、下記ソフトの計算結果をもとに、一般的に行われている旧暦の計算方法を適用した場合です。)


<続報>

 その後国立天文台の相馬さんより、今回の件についてコメントを頂きました。
(なお、現在旧暦は法的に廃止されてまして、国立天文台などの公的機関からは正式な公表は一切行われてませんので、ご承知下さい。)

 今回の「130年後」という報道は、日経新聞、サンケイ新聞などで行われたそうで、その際の出典が科学誌「サイアス(SCIaS):朝日新聞社」だったそうです。こちらによると、上の表の

2127 9/20− 9/21 前晩 名月の前の晩が皆既月食
が、該当しているとのことです。

 相馬さんの計算によれば、この月食の前の新月が9月7日の午前0時10分という微妙な時刻になるそうです。これに民間で行われている旧暦の計算方法に従えば、9/7が旧暦八月一日になり、上の表の通り9/21の晩が名月になります。この場合は、名月の晩が月食にはなりません(下図の上側)。

 一方で相馬さんはサイアスの著者の方ともお話をされてまして、その計算に誤差があって新月が9月6日深夜となり、旧暦が一日ずれて9/6が旧暦八月一日、9/20の晩に名月となってしまったことがわかったそうです。この場合は名月の晩が皆既月食となってしまいます(下図の下側)。

 いまのところ計算の上では、新月が9/6にずれ込むことはなさそうだとのことですが、130年も先のことなので実際どちらが正しいと断定できません(特に、地球の自転周期の変化による影響は、実際に130年後にならないとわからないそうです)。そのためこの件はそれ以上追求しないことにしたとのことです。

 以上が、「130年後には、名月が皆既月食になる」という話の発端だったようです。

 いずれの場合でも、天文学的にはほとんど意味のない話だと思いますので、あまり騒ぎ立てる必要はありません。ただ、やはりこのようなことを気にしてしまう日本人というのは、僕は個人的に好きなんですけどね。相馬さんをはじめ、苦労された関係の方々に感謝申し上げたいと思います。

 (相馬さん、コメント頂きましてありがとうございました。)


本ページ作成にあたって使用したソフト

「LMAP」
 本ページの月食データは、竹迫さん作成のフリーソフト「LMAP」によりました。このソフトの作者の竹迫さんのホームページ「古天文の世界へようこそ」はこちらです。古天文学について解説された必見のページです。
 また本ソフトは、当会甲田さんの「古天文学と天文民俗学の部屋」のページの中の、古記録の検証に便利なソフトからダウンロードできます。

「天文教育おたすけCD テスト公開版」
 また、旧暦の計算には、「天文教育おたすけCD テスト公開版」の中の旧暦計算ソフトを使用しました。こちらは、出雲さんの「天文と民俗学」からダウンロードして使用しました。こちらのページでは、色々な星の伝説などについて、詳しくまとめられてますから、ぜひご覧下さい。



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